1月20日(金),つまり昨日,京都大学工学部工業化学科の研究室見学会が実施された.工業化学科では4回生で研究室配属されるため,3回生を対象に,研究室を見学してもらって,研究室選びに役立ててもらおうという企画だ.化学プロセス工学コース(化学工学専攻)の場合,1日ですべての研究室を一通り見学することができる.これは非常に恵まれた機会と言えるだろう.
ところが,化学プロセス工学コース以外では,大量にドタキャンする学生がいたらしい.どうしても外せない用事ができたのなら仕方ないのだが,こういうチャンスを活かすことができないような生き方では,将来大丈夫なのかと心配になる.まあ,他コースの学生のことはどうでも良い.少なくとも,うちの研究室に来てくれた学生には,ビシッとそういう意識を身に付けてもらう.
研究室見学時間は,1研究室につき15分.これには移動時間も含まれているので,実質的には13分ほどだろう.その短い時間に,研究室のことを何もかも説明するなんて不可能だ.ましてや,研究内容の詳細を3回生に理解してもらおうなんて無理に決まっている.
研究室見学会の目的は何か.研究室側からすれば,リクルートに他ならない.自分の研究室に興味を持ってもらって,多くの学生に「この研究室に来たい!」と感じてもらう.そうすることによって,優秀な学生を集めることができるようになる.
この目的を明確に認識しているなら,個々の研究テーマについて,研究内容をうだうだと説明するなんて馬鹿げていることがわかるだろう.もし難しい研究内容を難しく説明している人がいるとしたら,マネジメント能力やプレゼン能力が欠如していると言わざるを得ない.そういう人には,プロセスシステム工学研究室の課題図書を紹介するので,ドラッカーやカーネギーをきちんと勉強すると良いだろう.
研究室に来てくれた学生には伝えたが,プロセスシステム工学研究室を差別化する特徴として,研究室旅行が挙げられる.ここ数年の実績は以下の通りだ.
普通はありえないことだが,研究室旅行で海外に行くのが当然のこととなっている.ただし,重要なのは,海外旅行をしているということではない.「海外に行けますよ」なんて低俗なことを,私が研究室の売りにするわけはない.今時,海外なんて誰でも行ける.
プロセスシステム工学研究室が行く海外旅行の特徴は,現地のトップクラスの大学を訪問し,研究発表会を開催し,スタッフおよび学生間の交流を深めることにある.実際,2005年のタイ旅行では,チュラロンコン大学を訪問し,修士2年の学生は英語できちんと発表した.2004年の韓国ソウル旅行では,ソウル国立大学を訪問し,同じように,修士2年の学生が英語できちんと発表した.発表会後は夜の街でお世話になり,帰国後も学生間の交流が続いたことは非常に喜ばしいことだ.なお,グアムはただの遊びだ.
研究室旅行で海外の大学を訪問するのは,少しでも,学生に国際的な感覚を身に付けて欲しいからだ.理想的には,できるだけ早い時期に海外留学をして欲しいと思う.しかし,留学なんて誰でも簡単にできることではないだろうから,海外の大学を訪問するという機会を通して,海外へ目を向けるきっかけにして欲しいということだ.そのレベルであれば,研究室の取り組みとして可能だ.
将来,各分野で日本を代表する研究者や技術者になってもらうことが,研究室として学生に望むことだ.日本しか知りませんなんてことでは困るわけで,常に世界を意識し,国際的に活躍できる素地を学生時代に養ってもらいたい.
そういう観点から,積極的に,学生に国際会議で発表する機会を与えるようにしている.研究なんて,うまく行く場合もあれば,うまく行かない場合もあるのだから,全員に平等に機会を与えられるわけではない.それでも,修士課程の学生に対しては,在学中に最低1回は国際会議で発表するチャンスを与えたいと考えて,研究室運営を行っている.
2004年度には延べ9名の学生が,2005年度には延べ4名の学生が,国際会議で発表を行った.2006年度は,現時点で,修士2年の学生2人をドイツに,1人を韓国に送り込むことが決まっている.
もちろん,最初から上手に発表ができるはずはない.発表は何とかこなしても,質疑応答でボコボコにされるのが普通だ.しかし,その経験を通して,自分の英語力のなさに気付くことができ,英語ができないことが将来どれほどの不利益を自分にもたらす可能性があるのかを知ることができるのだ.研究室として,そういうきっかけを与えてやることはできる.しかし,その後は,学生本人の自覚の問題だ.
こういうチャンスを掴みたい学生にとって,プロセスシステム工学研究室は悪くない選択だと思う.
研究室見学会では時間がなくて,ほとんど話すことができなかったが,ここに学生へのメッセージをまとめておこう.
是非とも言っておきたいことは,「自分が思い描いたような人間にしか自分はなれない」ということだ.今のうちに,しっかりと自分の将来のことを考えておくべきだ.「何も考えていない」という態度は,決定を先延ばしにしているだけではない.そんな甘いものではなくて,自分の可能性を猛烈な勢いで縮小させているのだ.時間は非情に流れていく.二十歳を過ぎて,もはやダラダラ時間を潰している暇などないことを知るべきだ.
見学会後の自由時間にプロセスシステム工学研究室に来てくれた学生諸氏とは,難しい話からくだらない話まで色々とすることができた.国際会議の論文投稿締め切りを数時間後に控えていたため,心中穏やかではなかったが,あのように面と向かって話せば,何か得るものもあるだろう.うちの研究室に来たら,大いに頑張って欲しい.
最後に,これまでに書いた文章をリンクしておく.参考になれば幸いだ.