退官
2003年05月20日(火)

5月18日(日)に,ウェスティン都ホテル京都にて,3月に停年退官されたボスの停年退官を祝う会が開催された.京都大学教授ともなると,定年退官後は,私立大学などの教授として再就職される方も多いようだ.ところが,うちのボスは,

組織をダメにするものは,若者の失敗ではなく,老人の跋扈である. (伊庭貞剛)

という言葉を引用して,研究・学会活動などからは一切身を引くと宣言し,実際にそうされている.あまりにも鮮やかな身の引き方だ.卒業生と話をしても,その鮮やかさには驚くものが多い.国益という観点から,それが良いかどうかという議論は脇に置くとして,そんな身の処し方もあるのだと感心させられる.一般に,自分自身も含めて大学の研究者というのは非常に功名心が旺盛なものだと思うのだが,うちのボスは世俗的な名誉に執着する様子もなかった.退官前,そんなボスが

省りみて 栄華の日々を 持たざりし 我が人生を 自画自賛する (岡本文弥)

という境地までは達することができないと言っていた.結局,受賞とか受勲とか,そんなものに意義を見い出すのではなく,人として如何に生きるべきかという問いに自分の人生をかけて自分なりの答えを出す,ということなのだろう.そんな思いは,

人を取り除けてなおあとに価値のあるものは,作品を取り除けてなおあとに価値のある人間によって創られるような気がする. (辻まこと)

を格言とするところに見て取れる.また,印象に残っている言葉として,

Ultimately, we’re all dead men. Sadly we can not choose how. But we can decide how we meet that end in order that we are remembered as men. (Proximo, "Gladiator")

を挙げられることからも察することができよう.

過去の独り言にも書いたことがあると思うが,研究者としての今の私があるのは第一にボスのおかげである.遊び呆けて頭の使い方すら忘れていた学生に,教授みずから,論文の読み方,レポートの書き方,論文の書き方,学会発表の仕方を教えて,学生を正気に返らせるだけにとどまらず,研究者への扉を開き,その論文すべてをチェックし,数多くの国際会議に参加させ,一流の研究者と出会う機会を与え,さらには海外留学までも経験させる.まったく尋常ではない.この恩にだけは何としてでも報いなければならない.

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