第一回工学部教育シンポジウム@京都大学
2005年12月17日(土)

講義評価への取り組み

京都大学の工学部高等教育研究開発推進センターの共催で開催された第一回工学部教育シンポジウムに参加した.積極的に参加したわけではなく,本年度から本格的に実施された講義評価において,私が担当している1回生配当科目「基礎情報処理演習」が対象となったため,参加を求められたわけだ.それでも,自分が受けてきた講義を思い起こすと,自浄作用の働きそうにない大学において,あまりにも酷い講義を駆逐するためには,学生あるいは第三者による何らかの講義評価は必要と思うこともあり,元々,講義評価に興味はあった.

工学部教育シンポジウムでは,最初に,高等教育研究開発推進センターのスタッフからアンケート調査結果の概要について説明があった.しかし,単発的なアンケートから読み取れる内容は,ほとんど想定内のものばかりで,あまり面白くはなかった.高等教育研究開発推進センターが計画している通り,ある程度の期間に及ぶ追跡調査が必要だろう.

ただし,役立つ情報も引き出せている.1回生対象科目の場合,複数クラスで開講されることも多い.この場合,当然ながら,異なる教員が同じ内容を教えることとなる.アンケート調査結果を見ると,学生の満足度に大きなバラツキがあることを確認できる.教え方の優劣が現れているわけだ.問題は,このような情報を活用できるか否かだ.

高い評価を受けた講義とは?

今回の工学部教育シンポジウムでは,評価の高かった講義を担当する教員4名が,「私の授業」と題して話をするという企画があった.最初の2つは土木施工と建築史で,共に現地実習を取り入れていた.あとの2つは,半導体工学と線形代数だ.

土木施工では,産業界から複数の講師を招いて土木施工の実際について語ってもらうと共に,関西国際空港第二期工事現場を訪問し,現場を体感するという工夫がなされているそうだ.これだけしてもらえれば,学生は喜ぶだろう.ただ,学科や学部からは経済的な支援が受けられないため,担当教員の委任経理金(企業や財団等からの助成金や寄付金)を使用しているとのことだった.もちろん,これだけのことをできる教員が担当しているのであるから,普段の講義にも工夫がこらされている.

建築史では,休日に滋賀県内の寺院を訪問し,建築物の大きさを測定したり,過去にどのような改修が行われたかを考察するという実地演習を行っているそうだ.大学院の学生に指導の補助を依頼し,バスをチャーターして実施しているそうだが,なんと,費用は教員の自腹だという.担当教員が仰るには,建築史が専門では委任経理金ももらえないので,自腹でやるしかないとのこと.先述の土木施工とあわせて,もっと教育にお金を投入できる仕組みにならないものかと感じる.

3番目は半導体工学で,身の回りにあふれる半導体を実感できるような工夫がなされていた.担当教員は,学生のモチベーション(動機付け)を高めることと,失ってしまった知的好奇心を取り戻させることの重要性を指摘されていたが,これには全く同感だ.12月7日の独り言「MATLAB EXPOでの技術者教育に関する講演」にも書いたとおり,モチベーションこそが何よりも重要と思う.

最後は線形代数だが,これには少なからず驚いた.というのは,数学の授業なんて面白くないものと相場が決まっているからだ.線形代数のような数学科目で高い評価が得られた理由として,教員がユーザとしての立場で教えていることが挙げられる.つまり,現実の工学的課題に線形代数がどのように貢献できるのかを示すことにより,線形代数を学習するモチベーションが与えられるわけだ.通常は,この動機付けのないまま,延々と定理と証明を繰り返すため,多くの学生は学習意欲を削がれてしまう.実際には線形代数は極めて有用であり,制御工学やデータ解析は線形代数を知らなければ何もできないし,線形代数さえ知っていれば何とかなる.Googleがページランクを算出するアルゴリズムでさえ線形代数に立脚している.

自分が担当する講義については継続的に改善していきたい.

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