仕事の成り行きで,サプライチェーンマネジメントも視野に含めて,企業内・企業間の情報連携に関する知識が必要になった.サプライチェーンマネジメントもITも,結局のところ,企業が儲けるのに役に立たなければ意味がない.言い換えると,そういう道具によって,企業が強くならなければ意味がない.そういう観点から,やはり注目されるのは,トヨタ生産方式と称される,トヨタ自動車の製造技術である.
トヨタ自動車の製造技術に関しては,たとえ自動車関連産業あるいは製造業に属していなくても,「ジャスト・イン・タイム」,「カンバン方式」,「自働化」などのキーワードを聞いたことがある人は多いはずだ.しかし,例えば,カンバンの仕組みを知ったとしても,トヨタ自動車の製造技術の本質を理解したことにはならないし,ましてや,カンバンを利用したからといって企業が強くなれるわけでもない.カンバンは,理想を現実にするための手段として,ニーズから生み出されたものである.したがって,その理想とは何であるのかを知らなければ,トヨタ生産方式の本質は理解できない.なぜカンバンが生み出されたのか,なぜ自働化なのか,その底流にある思想は何であるのか.これらを理解することこそが重要である.
いわゆるトヨタ生産方式に関する書籍は数多く出版されているが,その本質に迫るという観点からは,やはりトヨタ生産方式の生みの親である大野氏の著作を読むのが近道だろう.というわけで,
トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして
大野耐一,ダイヤモンド社,1978
を読んだ.誠に遅ればせながら,という感じだが...本書は,ジャスト・イン・タイムという発想の起源以前まで遡り,トヨタ生産方式の本質と歴史を語ったものである.フォード流の大量生産ではなく,日本土着の多種少量生産方法の確立を目指し,徹底的にムダを排除するトヨタ生産方式.本書は,製造技術に関わる者に多くの示唆を与えてくれる.
さて,そのような本書の中に,次のような言葉があった.
英語の辞書でエンジニア「engineer」を引くと,ご承知のように「技術者」という訳がでている.この訳語の中にある「術」という字だが,この字をよく見ると,「行」の間に「求」がはいっている.「行動」が要求されているのが「術」なのではあるまいか.
(中略)
「技術」も(剣術と)同様に,行動が要求される.実際にやるに限るのである.「述」もジュツと読む.最近は「技術者」ならぬ「技述者」のほうが多いのではないか.気になることである.
実際に行動せず,技術について語るだけの人,それを「技述者」と呼んでいる.そうはならないように,気を引き締めなければならない.大学にいる研究者などは,口先で生きているようなところがあるので,なおさらだ.