子供は「空き時間」を「有効に」利用しなければならないのか
2005年06月16日(木)

携帯電話による,新しい学習教材提供サービスが開始される(下記ニュース参照).中学受験をする小学生を対象として,携帯電話にダウンロードした問題集や参考書で勉強できるというサービスだ.サービス提供会社によると,塾の行き帰りなどに,「空き時間を有効に使える」そうだ.

このニュースを読んで,様々な疑問が浮かんできた.

第一に,「空き時間」の存在は悪なのか,ということだ.物思いにふける時間,ボーッとする時間,友達とたわいない話をする時間.そういう時間は無駄だということなのか.もっと目に見える効果がすぐに現れるようなことにのみ,時間を使うべきということなのか.そもそも,子供にとっての「空き時間」って何だ.そんなものが存在するのか.

第二に,「有効に」使う必要があるのか,ということだ.子供が何かをするときに,その行為が効率的でないといけないということなのか.眼前の入試に寄与しないようなことは無駄であり,たとえ問題集を前にしても,時間をかけて悩むのは時間の浪費であり,そんな暇があったら,公式や四字熟語や年号でも覚えなさいということなのか.

こういう発想の大人に指示されて育つ子供は,一体,どんな大人になるのだろうか.自分の周囲には見掛けないタイプなので,非常に興味がある.親が受験に熱中して,自宅と塾の往復に使う時間すら無駄だから,携帯電話で勉強しなさいと言う.そんな調子だから,当然,自宅でも,「勉強しなさい!○○中学校に行けないわよ!勉強しないと,お父さんみたいになるわよ!」なのだろう.

こういう親は,もし子供が受験に失敗したら,何と声をかけるのだろうか.正直に,「あなたが馬鹿だから落ちたのよ.そんな馬鹿に育てた覚えはありません.」とでも言うつもりなのだろうか.そうでなくても,親の期待に応えられなかった子供は,たとえ理不尽な期待であっても,自分を責めるだろうに.悲劇としか思えない.

問題は,親が,子供の将来をどのように考えているのかだ.どのような人間になってもらいたいと願っているのか.そのためには,どのような経験をさせるべきなのか.冷静に考えてみるべきだろう.まさか,一流大学の入試に合格することが人生の目的だとは思っていないだろう.そうであれば,なぜ,子供に詰め込み型の勉強をさせる必要があるのか.それとも,自分自身が何の目的もなくダラダラと惰性で生きてきたために,難関校合格以外の目的を思い描けないのだろうか.それで,子供を受験勉強に追い立てるのだろうか.

確かに,目の前に迫った入試を突破するために,詰め込み型の勉強をするのは効果があるだろう.試験前の一夜漬けと同じなのだから.しかし,そんな勉強は,力強く生きていくための役には立たない.考える力を身に付けさせるのならともかく,断片的な知識を頭に詰め込んでも無意味だ.正解が存在することが分かっているような,与えられた問題を解く力なんて,それほど重要ではない.少なくとも,ペーパーテストで点が取れるだけの学生なんて,私は全然興味がないし,凄いとも思わない.そんな能力があるからと言って,まともに社会でやっていけるのかも分からない.

受験が悪いとは思わないし,子供に良い教育を与えたいと願う親の気持ちは立派だ.しかし,近視眼的にならずに,将来の社会の在り方について考え,その社会で生きるであろう子供の将来について考え,子供の成長に合わせて,その時々に適した経験をさせてやる,そういう態度が必要ではないだろうか.もちろん,そのためには,親が必死で勉強する必要がある.歴史を知らない人が将来を見通せるはずはないし,子供に与えるべきものについても知らなければならない.親がこのような努力を惜しむのであれば,一体,子供に何を要求できるというのだろうか.


【ニュース】 (朝日新聞,2005年06月15日)

au(KDDI)は中学校を受験する小学生向けに、携帯電話に問題集や参考書をダウンロードして、画面上で勉強できるサービスを本格的に始める。学習教材は、出版の集英社や、中学受験塾大手の日能研などの協力を得て、クイズ形式やイラスト付きも用意。「空き時間を有効に使える」として塾の行き帰りなどでの利用を見込む。

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