新入生へのメッセージ:UNIXは何の役に立つの?
2005年04月29日(金)

先のメッセージを書いた1週間後に,学生に書いてもらった演習の感想に答える形で,別のメッセージを書いた.それも,ここにメモしておこう.

UNIXは何の役に立つの?

特にWindowsに慣れてしまっている人は,初めてUNIXに触れると,あの素っ気ない画面とか,コマンドを覚えないと何もできない事実とかに戸惑うようです.でも,コンピュータは命令を与えないと動きません.つまり,Windowsというのは,見栄えを良くして,コマンドをキーボードから入力するかわりに,マウスで何かをクリックするようになっているだけです.

マッキントッシュのコンピュータを見たことがありますか.リンゴマークでお馴染みの奴です.知らない人は,一度,どこかで探してみて下さい.i-PODを製造販売しているのがマックだと言えば,もっと身近に感じるかもしれませんね.そのデザインセンスや使い勝手を知れば,大抵の人は,Windowsに興醒めするでしょう.センス悪いし,使いにくいし,すぐにフリーズするし,セキュリティはボロボロだし...さて,そのマックは君達が「使いにくいな〜!」と思っているUNIXシステムを搭載しているコンピュータです.UNIXというのは中身の話で,外見はいくらでも変更することができます.でも,変更するためには,UNIXを知らないといけません.

コンピュータゲーム

コンピュータを使いこなそうと思うと,プログラムを書く必要があります.Windowsでも同じです.思い通りのことをコンピュータに実行させようと思えば,何らかのプログラミング言語でプログラムを書かなければいけません.マウスをクリックするだけではダメなのです.

例えば,ゲーム.コンピュータゲームが大好きな人も多いでしょうが,ゲームをするのは,コンピュータを使いこなしているのではなくて,ゲーム作者の言いなりに操られているだけです.ゲーム作者が提供する世界に,自分を嵌め込んでいるわけです.主体性が全くないとは言いませんが,A列車で行こうにしても,シムシティにしても,所詮は,ゲーム作者が提供する世界の中で遊んでいるだけの話です.ゲームを全否定しているわけではありません.確かに面白いものもあるでしょう.私は,それより遙かに知的で面白いと感じる趣味があるので,ゲームには全然興味ないですが...仮にゲームを作成する側に立とうとすれば,プログラムを書けないといけないわけです.マウスのボタンは押せますなんてレベルでは話になりません.

使うだけの人達と作る人達

車,飛行機,冷蔵庫,炊飯器,テレビ,自分の周りにあるものが,どのような仕組みで動いているのか考えてみてください.マイクロチップなどを利用して,緻密な制御が行われています.そのマイクロチップなどは,要するに,予めプログラムを書き込んだ超小型コンピュータなわけです.一般の使用者は中身なんて分からなくても,そういうものを使えます.でも,新しいものを作り出すことは不可能です.ここに大きな壁があります.物を使うだけの人達と,物を作り出す人達.

どちらの立場になりたいですか?

世の中には便利な物があるのだから,物を使うだけでいいと思う人も多いでしょう.ほとんどの場合,それで構いません.我々は誰かが考え,誰かが作ってくれたものを利用して生活するのですから.

ただ,次の質問に答えて下さい.

「あなたは,何を考え,何を作るのですか?」

何も考えられず,何も作れないなら,生きていくことはできないでしょうね.そんな人を,誰が必要とするのでしょう.就職させてくれるところなんて,あるはずないでしょうね.

大学なんて行かなくてもいい

もちろん,全員がUNIXなんて知る必要ないのですよ.あんなもの,知らなくても生きていける人の方が多いです.でもね,それを言い出すと,京都大学なんかに来る必要だってないわけです.京大なんかに来なくたって,生きていけます.大学にすら来る必要はない.

「UNIXは何の役に立つの?」という質問をしてくれた人に,私は尋ねたい.

「なぜ大学なんかに来てるの?大学なんて何の役に立つの?」

答えられますか?

もっと素朴な疑問もあります.

「高校以上の勉強なんて必要ないでしょ.あんなもの現実の生活で何も使いませんよ.なぜ高校で勉強なんてするのですか?」

ちょっと真剣に考えてみて下さい.

考えるきっかけ

君達は若い.これから大きく変わっていく可能性を秘めている.何かの縁で一緒の演習室に詰め込まれることになった私がしてあげられるのは,考えるきっかけを与えることだけです.

何を考え,どう行動するか.これは君達の問題であり,その結果は君達が自分の一生をかけて背負わなければならないものです.

まじめに講義に出るのも,海外旅行に行くのも,テレビゲームをするのも,サークルに行くのも,すべての行動は,自分自身の判断の結果ですね.大学生にまでなったのだから,自分の人生には自分で責任を取る覚悟は当然できてますよね.

何でも相談にはのります.対応できることは対応します.でも,君達の人生の責任を取ることはできません.

演習の感想

「正直,何をやっているのかわからなかった」
「UNIXは意味不明で難しかった」

こういう感想を持った人は多いと思います.先にも書いたとおり,2週間分を1週間で実施したのですから,大変です.問題は,こういう感想を持った後,どのような行動をするかです.

「UNIXは意味不明で難しかった」
1 → 何もしない
2 → 復習する.予習する.独自に勉強する.

「復習します」と書いてくれていた人が非常に多くて,心強く感じたのですが,実際に復習しましたか.いくら頭で考えても,紙に書いてみても,行動しなければ意味ありません.

ただし,上記1,2に関しては,どちらが正解というものではありません.どちらでも構いません.UNIXを習得し,自分の技術にしようと思う人なら,絶対に予復習は必要でしょう.一方,UNIXなんて自分のキャリアプランには関係ないという人には,UNIXの予復習なんて時間の無駄でしょう.

ちなみに,私のキャリアプランにとっては,君達が予復習をするかしないかは,どうでも良いことです.ただし,先のメッセージに書いたとおり,考えるきっかけを与えることは使命と勝手に考えています.基礎情報処理演習とは全然関係ないですが,基礎情報処理演習の中身なんかよりも,ずっと大事だと信じていますから.

演習の真の目的

中には,こんな感想を書いてくれた人もいました.

「先生の言うことは厳しいが,自分で学習することの重要性を強調してくれている」

この通りなんです.結局,自分で勉強すれば身に付くが,そうでなければ身に付かない.これまでは手取り足取り教えてもらっていたのかもしれませんが,20歳も間近になって,いつまでも保育園児みたいな甘えたことを言わないように.

確かに,演習時間内に基本コマンドを理解してもらうという観点からは,もっとゆっくりと演習を進めて,丁寧に解説もして,今回の半分くらいの内容にしておけば良かったでしょう.でも,私は,そんなことを目指してるのではないのです.2,3の基本コマンドを覚えたからって,UNIXが使えるようになるわけではありません.そんなレベルで「演習が分かった」と満足しても仕方ないでしょう.

私が目指すのは,そんなレベルではなく,自分が興味を持ったことに対して,自分で調べる能力,自分で考える能力,自分で主体的に動く能力を身につけてもらうことです.これができれば,京大の看板なんかなくても,自分の力で活躍していけるでしょう.逆に,そういう力を身につけるために,大学に来ているのではないのですか.手取り足取り教えてもらって,使えもしない知識ばかり頭に詰め込んだところで,一体何の役に立つのでしょうか.それこそ時間の無駄です.

「前半の説明付きが分かり易くて良かった」
「もう少しゆっくりやった方が良いのでは」

という感想を書いてくれた人達もいましたが,私の回答は,上記の通りです.当然,最低限度の説明はします.できるだけ内容を理解して欲しいとも思っています.でも,それよりも,もっと強く,君達に自主的に考え,行動するようになって欲しいと思っています.また,

「後ろからでは見にくい」

という指摘もありました.コンピュータの画面をそのままスクリーンに表示すると,どうしても文字が小さくなってしまいます.拡大できるといいのですが,そういう機能はないようです.ですが,私の回答は,

「誰よりも早く来て,一番前の席に座ればいいだけ」

です.自分の意志による行動には,自分で責任を持つしかないでしょう.前の講義の都合で,どうしても遅くなってしまうというのであれば,申し出て下さい.最前列を特別に指定席にします.

活躍に期待して...

長文のメッセージを書くのは,これで最後にすると思います.私が演習を受け持つのは,あと3回だけです.その後は,もう講義などでは顔を合わせない人も多いと思います.願うのは,君達が,満足のいく人生を送るために,今を無駄にしない,強い精神力を持ってくれることです.

君達の,未来の大活躍を期待して...

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