羽田空港に凶器を持って
2005年01月16日(日)

開かれた鞄から銀色に輝く包丁が取り出され,羽田空港のセキュリティチェック担当者に緊張がはしる.すぐに警備担当の男性が駆けつけて,その鞄の持ち主に尋問を始めた.

「行き先はどこだ.搭乗券は?」

「これ,何に使うのかね?」

一体,彼はその包丁で何をしようとしていたのだろうか.それにしても,搭乗ゲートへ向かう途中にあるセキュリティチェックを,包丁を持って通過しようというのは,尋常ではない.彼の目的は何なのか.もしかして,何か途方もないことが組織的に行われているのだろうか.

その14時間ほど前.チューリッヒ空港では,朝からの濃霧でフライトスケジュールが大幅に乱れていた.スイスインターナショナルとのコードシェア便であるJAL5072便で成田空港へ向かう予定のその男は,少し落ち着かない様子で,搭乗案内を待っていた.定刻より1時間ほど遅れて,搭乗案内が始まると,その男は足早に機内へと消えていった.

座席番号8K.窓側のそのシートに座った男は,このとき,まだ羽田空港で起こる出来事を予期できずにいた.男が成田空港に到着したのは,日本時間午前10時30分頃.やはり,定刻より1時間ほど遅い.パスポートコントロールを済ませて,無事に入国を果たしたときは,既に11時頃になっていた.男は慌てた様子で,羽田空港行きのリムジンバスのチケットを購入し,11時05分発のバスに飛び乗った.

この日は,天候が悪く,東京地方は雨で,一部では雪が降っていた.その男が握りしめているのは,12時30分羽田空港発の航空券だ.この天候ではフライトに間に合わないだろう.男がイライラしているのは,そのせいなのだろうか.

雨の中を,リムジンが羽田空港第1ターミナルに到着したのは,12時15分だった.出発時刻まで,あと15分しかない.男はJALのチェックインカウンターに走った.しかし,既に受付は終了している.何らかの使命があるらしいその男は,それでもカウンターで,チェックイン手続きをするよう求めた.男が手にしていた航空券を見た係員は,何かを悟ったのか,搭乗ゲートへ緊急連絡を行うと,特別にチェックイン手続きを行い,その男を先導して9番ゲートへと走り出した.

セキュリティチェックに到着すると,その男は,鞄を検査台に置くように命じられた.X線装置を通過した鞄に,検査員が集まる.検査員の一人が,男に尋ねた.

「鞄の中を見せていただいて宜しいですか.」

一瞬の間の後,男は表情を変えずに,「いいですよ」とだけ答えた.

開かれた鞄から銀色に輝く包丁が取り出され,羽田空港のセキュリティチェック担当者に緊張がはしる.すぐに警備担当の男性が駆けつけて,その鞄の持ち主に尋問を始めた.

「行き先はどこだ.搭乗券は?」

「伊丹です.搭乗券はJALの係の人が持っています.」

「これ,何に使うのかね?」

「そりゃぁ,台所で料理に使うに決まってますけど...」

その男が持っていたのは,刃物で有名なドイツのヘンケル社製の包丁,研ぎ機,はさみだった.3点で約2万3千円.フランクフルトで,男が妻への土産として購入したものだった.

そう,その男とは私です.

しかし,本当に参りました.受付が済んでいるのにチェックイン手続きをしてもらったにもかかわらず,セキュリティで大騒動になるところでしたから.結局,預かり票みたいなものに私とJALの係の方がサインをして,セキュリティは通過しました.ただ,危険物は私が取り扱ってはいけないとのことで,JALの係の方に非常に重たいスーツケースを搭乗ゲートまで運んでいただきました.機内で座席に着いたとき,時計は12時30分を指していました.何とか間に合ったと言って良いのかどうか.

まあ,チューリッヒ空港でのフライトスケジュールの乱れは悪天候のため仕方ないものです.しかし,JAL5072便に関しては,機体は既に空港にあり,他機からの乗り継ぎ客を待つために,離陸時間を1時間近く遅らせたわけです.そのために,羽田発伊丹行きの飛行機に乗り遅れるのでは,私が可哀想ってものです.結果的にスケジュール通りに帰宅できたので良かったのですが.今後,成田−羽田間をバスで行き来するのは止めようと思いました.空港が変わるとチェックインをしなおす必要があるため,運行遅延の際など修復が困難なことを実感しました.やはり,乗り継ぎはシンプルが一番です.

最後に,羽田空港のチェックインカウンターで,受付終了後にもかかわらず,私のチェックイン手続きをして下さり,搭乗ゲートまで一緒に走って下さった,JALの地上係員の方にお礼申し上げます.ありがとうございました.また,セキュリティチェックにてお手数をおかけし,申し訳ありませんでした.私に非があるわけではないでしょうが,親切にチェックイン手続きをして下さった方に,予期せぬ事態で時間を消費し,ご心配をおかけしたことには深くお詫びします.ともかく,予定通りに帰宅できたのは,この係員の方のおかげです.本当にありがとうございました.

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