投資とは「利益を得る目的で事業に資金を投下すること」だと広辞苑には書いてある.そういう意味では,利権に群がる国会議員その他にとって,公共事業は確かに公共投資になっている.一般の国民にとっては壮大な公共浪費であろうとも...私は教育こそが国家にとって本当に重要な投資だと思っている.だから大学で自分の能力を活かす道を選んだ.しかし,残念なことに,この意見に政府も文部科学省も賛成してくれないようだ.ゆとり教育のような愚策を推進するばかりか,奨学金制度とかも縮小させることしか頭にない.全く何を考えているんだろうね.将来の国家を支える国民を育てるのに資金を投下しないで何に投下するというのだろうか.いや,縮小させることしか頭にないといのは言い過ぎかな.CEOとかいうバラマキ政策は実施したのだから.
さて,投資について身近な例で考えてみよう.受験戦争と言われるが,親が大金をかけてでも子供を一流と世間に思われている大学(以後,一流大学と省略するが,本当に一流である保証はない)に行かそうとするのは,まさに投資だ.一流大学を経由して一流企業に就職すれば,終身雇用と年功序列賃金制に守られて,平均よりも相当に上の生活が送れることがほぼ約束されていた時代には,子供のお受験に資金を投下することは,ローリスク・ハイリターンの相当に好条件な投資であったはずだ.いや今でもそうだろう.時代は変わったと言われるが,現在でも,京都大学という看板を背負っていれば,学生にとって就職活動は極めて有利なものとなる.お受験にお金を注ぎ込むことは立派な投資なのだ.こういう社会制度が変わらないのに,ゆとり教育なんて実施しても,貧乏人の子供から勉強する機会を奪うだけで,何の問題も解決されないことがわかるだろう.広がりつつある貧富の差を,さらに急速に広げるだけだ.そんなものを国策に掲げてどうするんだ.まったく...
狭義の投資というのはお金を事業に注ぎ込むことだが,将来の利益のために今何かを投下するのが投資だと考えてみよう.そうすると,自分の行動を違った角度から見られるようになる.例えば,時間というのは非常に貴重な私有財産だ.お金は増やせるが,時間は減るしかない.その貴重な時間を使って,我々は,勉強したり,遊んだり,食べたり,寝たりしているわけだ.勉強した時間は将来のために使われたと考えられる.また,遊んだ時間はその瞬間の快楽のために消費したと考えられる.もちろん,遊びも経験として将来への糧となるものもある.
具体的に考えてみよう.今,時給1000円のアルバイトをしている学生がいる.この学生は1000円で自分の1時間を売っているわけだ.毎日毎日このアルバイトをして,遊ぶかダラダラするだけの生活を続け,4年間の学生生活を終えた.特に技術を身に付けることもなく卒業したこの学生は,就職後も安い月給で働く.売るべき能力がないのだから仕方ないのだが,本人は不景気が悪いとか社会が悪いとか,ふざけた愚痴をこぼすしか脳がない.同級生である別の学生は,アルバイトは最低限に抑え,遊ぶときは精一杯に遊ぶものの,ダラダラと時を無為に過ごすようなことはなく,専門知識・技術を身に付けることに時間を費やした.その知識は高く評価され,良い待遇で企業に迎えられた.二人の就職後の年収は数百万円異なる.これは時間を投資したか浪費したかの違いだ.もちろん,これだけで人生が決まるわけではない.いわゆるリスク(危険ではなく不確定性)は常に存在する.しかし,投資の重要性は明らかだろう.こんなことは人に言われるまでもないことだ.ところが,学生を見ていると,わかっていないのではないかと心配になることも少なくない.
投資の話のついでに,私が卒業生に言っていることを書いておこう.分散投資という考え方だ.卒業生のほとんどは上場企業に就職するわけだが,そうすると社員持株制度がある.自分が働いている会社の株式をある一定の割引率で購入できるという制度だ.大抵は給料天引きで毎月一定額を株式購入に回す.問題は,この社員持株制度を利用すべきか否かだ.市場価格よりも割り引いて購入できるのだから,その分だけ得であることに疑う余地はない.しかし,就職した時点で,その会社に自分の人生の相当部分を賭けているわけだ.賭けるという表現は良くないかもしれないが,自分の収入をその会社に頼るわけだから,賭けると言ってもいいだろう.それだけ賭けた上に,さらにその会社の株式まで購入するというのは,私には極端な投資行動に思えてならない.インサイダー情報を得ていて,将来の株価上昇が明らかな場合には良いが,そうでないなら,過剰な集中投資としか思えない.仮に会社が倒産した場合を考えてみればいい.自分は解雇され,持ち株は紙くずに.これは極端だとしても,業績が悪化した場合には,給料は下がり,株価も下がる.調子が良いときは問題ないが,これでは悪くなったときのヘッジが何もできていない.そう考えると,どうせ株式を購入するなら,異業種の会社の株式を買うのが正しいと思える.
大人になったなら,時間もお金もうまく投資したいものだ.