化学工学専攻では,毎年3月に工場見学を実施している.対象は学部3回生で,2〜3日間に4社程度を訪問するのが慣例となっている.この工場見学の目的は,就職に向けて学生が企業を知る機会を設けるということになるが,多くの学生が大学院へ進学する現状では,むしろ,化学プロセスの設計や運転のための学問体系として化学産業と共に発展してきた化学工学を学ぶ学生に現場を知る機会を与えることに重点が置かれていると言えよう.実学を志す上で,現場を知ることは極めて重要である.
今年は3月6−7日の2日間で,萬有製薬,トヨタ自動車,新日本製鐵,三菱化学の4社を見学させていただいた.いずれの会社でも,じっくりと研究所や工場を案内していただき,質疑応答の時間に突っ込んだ話も聞かせていただいた.中でも新日本製鐵では,化学工学専攻卒業生との懇親会(立食パーティ)を用意していただき,さらに深夜まで楽しく話をさせていただいた.詳しくは書けないが,化学工学専攻卒業生の計らいで,見学もスペシャルメニューであった.
この工場見学に参加するための費用が,交通費などすべて込みで,5000円以下である.これほどまでに恵まれた機会がそれほどあるだろうか.ところが,この工場見学に無条件で参加する資格のある3回生のうち,実際に参加したのはその半数ほどであった.もちろん事情のある学生もいるだろうが,大半は工場見学に参加する機会を自らの意思で失ったのだろう.幼いから仕方ないと言ってしまえばそれまでだが,既に20歳だ.せっかく京都大学に入学しても,これだけ向上心が欠如していては,在学中に得られるものなど大したことはないだろう.京大卒という看板を外しても生きていける人物になって欲しいが,そうなれるかどうかは本人次第だ.今回は3回生の希望者が少なかったため,4回生や大学院生の参加も特別に認められた.参加した上級生は好奇心旺盛で,流石と思わせてくれた.研究室で過ごす1年は,学生の意識を大きく変えるようだ.