心を打たれる本を読んだ.2つの簡潔な言葉だけ引用しておこう.
善い人間の在り方如何について論ずるのはもういい加減で切り上げて,善い人間になったらどうだ.
名誉を愛する者は自分の幸福は他人の中にあると思い,享楽を愛する者は自分の感情の中にあると思うが,もののわかった人間は自分の行動の中にあると思うのである.
善い人間になれ.自分に言い聞かせるのは,これだけで十分ではないか.自分が善い人間になることを妨げるものが,この世の中に存在するだろうか.自分以外のものが影響を与えることができるのは,自分の肉体のみである.自分の精神は自分自身の支配下にあり,誰も手を出すことはできない.そうであるなら,自分が善い人間ではないことを一体誰のせいにできるだろうか.
善い人にも悪い人にも分け隔てなく与えられるようなものを望むな.名誉や財産など.それらによって,自分が善となることも悪となることもない.
名声や名誉などというものは,実に儚いものである.その名声や名誉を与えてくれる人達はどのような精神の持ち主であるか.名誉欲が強く,享楽的で,色情におぼれるような人達ではないか.そのような人達に褒め称えられることに,何の価値があろうか.自然の営みからすれば,ほんの一瞬にすぎない人生の目的は何か.名誉や財産を得ることなのか.善く生きることではないのか.
このような善き精神をもってローマ帝国を治めたのが,皇帝マルクス・アウレーリウスである.彼が残した言葉を集めた「自省録」には大変な魅力がある.