2002年11月15日(金)
アルバータ大学訪問

先週はインディアナポリスで開催されたアメリカ化学工学会に参加した.5日間に渡る巨大な会議だが,バイオあるいはナノというキーワードを冠するセッションが非常に多かった.アメリカでは重点的に資金を分配する研究分野が政策的に決められ,しかも配分の偏りが露骨なため,その時々の流行に研究者が過敏に反応するようになっている.また,そうでなければ,研究者は研究資金を獲得できず,路頭に迷うことになってしまう.日本はアメリカの方針に追従するぐらいしか能力がない(独自のアイディアが出てこない)ようなので,国立大学の独立行政法人化と相俟って,アメリカのようになって行かざるを得ないだろう.良いか悪いかは別にして...

いま,カナダからアメリカに向かう飛行機の中にいる.インディアナポリスでの会議の後,今週はアルバータ大学を訪問した.アルバータ大学は,学生数が3万人ほどで,カナダではトロント大学に継いで2番目に大きな大学だそうだ.アメリカでは超有名大学の多くが私学であるが,カナダには私学はなく,公立の教育機関が非常に充実しており,レベルも高いようだ.アルバータ大学も広大な敷地を持ち,キャンパス内は広々としていて,綺麗で(ただし道路は雪がドロドロになっていて綺麗ではなかった),講義室の設備も大変充実していた.私が「多変量統計的プロセス管理」に関するセミナーを行った講義室も,パソコン,電動スクリーン,プロジェクターなどが教卓で一括して操作できるようになっていた.ちなみに,すべての講義室に同等の設備があった.それに比べると,京都大学の講義設備の貧弱さは酷いものだ.そういうところに,教育への力の入れ方の違い(教官レベルに限らず国家レベルで)がハッキリと現れている.

今回の滞在では,Sirish L. Shah教授とBiao Huang教授を訪問し,お互いの最新の研究内容について議論すると共に,彼らの研究室に在籍するポスドクや学生からそれぞれの研究内容を説明してもらった.さらに,彼らと共同研究を実施している電気系専攻の教授を紹介してもらい,いろいろと議論する機会を得た.正直なところ,学会に参加するよりも価値があった.やはり,膝を突き合わせて議論する時間があるというのは,非常に重要である.通常の学会では,15分程度の発表と5分程度の質疑応答とが繰り返されるが,十分に議論する時間がないため,どうしても消化不良になりがちである.しかも,アメリカ化学工学会では要旨集のようなものがあるわけでもないため,なおさらである.今回,オハイオ州立大学のBakshi教授と2人で,アメリカ化学工学会の前後にコロンバスとインディアナポリスを車で往復したが,その車内での雑談も非常に有意義であった.それぞれが興味を持っている(最近取り組み始めた)研究対象はもちろん,日米の研究動向や,あまりに数が多過ぎる国際会議のいずれに本当に参加する価値があるかというようなことについて,意見を交換することができた.そういう観点から,国際会議に参加してすぐに帰国するというのは勿体ないと思う.もちろん,時間的また金銭的に非常に制約された中で行動しなければならないため,私のように行動することを許される立場にいる人はそう多くないだろう.しかし,どうせ海外に行くなら,あと3日滞在期間を延長し,1時間ほどのセミナーをさせてもらい,残りの1日半ほどを議論に費やせば,滞在費用以上の価値は十分にあるだろう.さらに言えば,時間的また金銭的に非常に制約された中で行動しなければならないからこそ,そうすべきだと思う.

そんな充実した時間を過ごしながら,折角アルバータに来たのだからと,カナディアンロッキーへドライブもした.既に紅葉シーズンは終わり,多くの湖は完全に凍結し,雪に覆われていた.スキーをするなら冬に来るべきだが,ただの観光ならやはり夏から秋に訪れるべきだ.エメラルド色の湖も,雪に覆われてしまっていては,ただの広場と変わらない.それに,あまりに寒すぎる.11月だというのに,最高気温が0℃を超えないというのは,さすがに辛い.

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