2002年07月21日(日)
バルセロナの闘牛

バレンシアから特急で3時間.土曜日の午後にバルセロナに到着した.バルセロナは今回で2度目である.前回は,3年以上前のことになるが,新婚旅行で訪れた.

スペインの生活リズムは日本とは随分と異なる.基本的に,昼食は家族と一緒に食べるそうだ.子供は学校から帰り,親も職場から家に戻る.午後1〜4時の間に2時間ほどかけて昼食を取り,昼寝もする.シエスタという南欧特有の習慣だ.その後,夕方7〜8時頃まで仕事をし,10時頃に夕食を取る.実際,レストランの営業時間は午後1〜4時と午後8〜12時となっていることが多い.昼食も夕食も随分と遅いことがわかる.ブティックも午後8時まで営業しているところが多いが,午後2〜5時ぐらいにはきっちりと店を閉めてくれる.

バルセロナは,サグラダ・ファミリア,グエル公園,カサ・ミラ,カサ・バトリョなどのガウディの建築物,ピカソ美術館やミロ美術館,旧市街のカテドラルや教会が代表的な観光スポットである.いずれも既に訪れたことがあったため,今回は空いた時間にモンセラットを訪問した.バルセロナの北西50kmほど,カタルーニャ公営鉄道で1時間弱の距離にあるモンセラットは奇妙な姿の岩山であり,その中腹に修道院を中心にした町がある.町まではロープウェイで登ることになるが,どうやってこんな所に町を作ったのかと不思議に思わずにはいられない.バルセロナに数日間滞在する機会があれば,モンセラットまで足を運んだらよいと思う.なお,ついでに書いておくが,モンジェイックにあるスペイン村には行く必要はない.暇を持て余しているなら別だが...

前回スペインを訪問したのは11月で,既に闘牛のシーズンは終わっていた.闘牛を見ることができなかったのが最大の心残り(マドリッドでナイフを持った強盗に襲われて前日までに撮影したフィルム1本を奪われたことを除く)だったため,今回は真っ先に闘牛のスケジュールを調べた.開催されるとすれば日曜日のはずなので,チャンスは一度だけだ.21日の日曜日を逃せば,もう見ることはできない.そこで,真っ先に観光案内所を訪れ,21日にモヌメンタル闘牛場で闘牛が開催されることを確認した.案内所では,当日チケット売り場でチケットを買ったら良いと言われたが,一生に一度の機会だろうから,ちゃんと予約をして万全の態勢で臨むことにした.普段は貧乏性だが,こういうときにはお金を惜しまないことにしている.しかし,流石に90ユーロとかいう値段は高いと思い,ソル・イ・ソンブラ(SOL Y SOMBRA)の1階第1列の席を予約した.これで一人52ユーロだった.ちなみに,ソル・イ・ソンブラを日本語に直訳すると「日向と日陰」のはずだ.日陰と日向ではチケット価格が倍以上も異なる.ソル・イ・ソンブラはその中間だ.

闘牛場では,3人の闘牛士が2頭ずつの牡牛を殺す.すなわち,一回の開催で6頭の牡牛が殺されることになる.淡々と6頭の牡牛が殺されていくのだろうと思って見ていたのだが,超ラッキー(?)なことに,闘牛士が牡牛の攻撃をまともに受け,角で放り投げられる瞬間を目撃した.その瞬間は闘牛場全体が物凄い歓声に包まれ,テレビカメラの撮影スタッフもカメラを三脚から取り外し,大慌てでどこかへ持って行った.倒れた3人目の闘牛士は数人に抱えられて退場して行った.その他,牡牛が突撃した際に,角が地面に突き刺さり,牡牛が前転してしまうという一幕もあった.

闘牛には,次のような決められた進行がある.

  1. 牡牛の出
    精悍な黒い牡牛が登場する.
  2. ピカドールの場
    2頭の馬に乗った2人のピカドールが,牡牛の首筋を槍(ヤリ)で突き刺す.
  3. バンデリリェロの場
    両手に銛(モリ)を持ったバンデリリェロが,一対の銛を3組,牡牛の首筋に刺す.
  4. ムレータの場
    剣とムレータと呼ばれる赤い布を持ったマタドール(闘牛士)が華麗な技を披露する.
  5. 真実の瞬間
    マタドールが牡牛の首筋に剣を突き刺し,止めを刺す.
  6. 死体の撤去
    馬が牡牛の死体を引いて,闘技場から運び出す.

最初に牡牛が登場してくるときは,凄い迫力がある.ハッキリ言って,剣と赤い布だけで牡牛を倒すのは無理だろう.そこで,ピカドールの槍で牡牛を弱める.牡牛が馬に突撃する瞬間に,馬上のピカドールが槍を刺す.牡牛の力は物凄く強く,馬は相当押し込まれる.ピカドールも振り落とされてはいけないから必死だ.バンデリリェロの銛は白色だったり,青色や緑色だったりと,結構華やかだった.飾り銛と呼ばれるのも頷ける.バンデリリェロは両手に銛を持ち,牡牛の正面から首筋にめがけて銛を打ち込む.かなり危険だ.そのため,2本の銛が見事に突き刺されば,観客からは大きな声援と拍手が送られる.一方で,片方だけを突き刺し,一目散に逃げるようだと,大ブーイングが巻き起こる.逃げている本人はまさに命がけなのだろうが,必死に逃げるその姿は確かにみっともない.それでも,バンデリリェロはあくまで脇役なので,失敗してもそのまま次の場面へと移る.

マタドールは剣とムレータを手に持ち,華麗な技を披露する.日本人が闘牛と聞いて思い浮かべるのはこの場面だろう.技が見事に決まると,観客から大きな声援と拍手が送られる.その後,マタドールが牡牛の背中に剣を突き刺す.この段階で,牡牛が弱っていくのがハッキリとわかる,もはや全力で突撃する気力もなく,壁際に追い詰められていく.そして,最後.牡牛の動きが鈍くなり,頭を垂らした状態で,マタドールがその首筋に剣を突き刺し,牡牛に止めを刺す.牡牛はばったりと倒れ,死ぬ.この最後の場面が美しく成し遂げられると,再び観客から大きな声援と拍手が送られる.ところが,今回,マタドールが牡牛の背中に剣を突き刺すことができず,逃げ回る場面があった.このときのブーイングは凄まじく,場内にペットボトルが何本も投げ込まれていた.一方の牡牛が,そのことを知ってか知らずか,まるでウィニング・ランをしているかのように壁際をぐるりと駆けめぐったため,観客は牡牛に大きな声援と拍手を送った.その牡牛は生命力も非常に強かったのだろう.何度も首筋に剣を刺されながらも倒れず,踏ん張っていた.結局,マタドールが止めを刺すことができず,脇役の手に掛かって死ぬことになった.そのときの闘牛場内の罵声・怒号は凄まじかった.そのような結末は決して許されないのだろう.実は,この牡牛はこれだけでは済まなかった.死んだ後,その死体を馬が運び出す際に,3頭の馬のうちの中央の1頭がこけてしまうというハプニングが起きた.

動物愛護教狂信者のようなことを言うつもりはないが,やはり,目の前で牡牛が殺される過程を見るというのには,何か気分の悪さを覚えた.闘技場に近い席だったせいもあり,血の生臭い匂いも強烈だった.聖書にも動物を神に捧げる場面は何度も出てくるので,スペインの人達はそういう観点で捉えているのだろう.しかし,普通の日本人にとっては,少なくとも,見物後に爽快感があるようなものではない.自分にとっては,一生に一度の経験だと思う.

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