2002年07月11日(木)
本当の学力をつける本

今や教育界のキーパーソンとして認知されるにいたった陰山先生が書かれた本のタイトルである.小学生と大学生という違いはあっても,教育に関心を寄せる点では変わりはない.もう10年以上も「ゆとりが大事」とか「個性の尊重」とか御託を並べるだけ並べておきながら,明確な結果は基礎学力の低下(というか崩壊の兆し)だけという昨今において,懲りずに授業内容を削減しようとしてきた偉い方々には愛想も尽きる.社会がすさみ,呆れた親が増える中で,トップまでもがこの有様では,公立の小中学校の先生は本当に大変だろうと思う.

これまではテレビなどで取り上げられるのを見聞きするだけで,基礎計算の徹底的な反復練習で優れた成果を上げ,ゆとり教育に対抗する先生というぐらいの認識しかなかった.しかし,本を読んでみて,決してそれだけではないということが良くわかった.まず,学校だけでなく,家庭ぐるみ,社会ぐるみでの教育や躾の必要性を強く説かれている.特に,学力を付けるためには正しい家庭生活が大切であることを,自らの調査結果などを示しながら書かれている.具体的には,早寝早起き,朝ご飯を食べる,テレビを1時間以上見ない,一家団欒をする,などである.こういうことを家庭できっちりとしないで,学校に文句を言う親は馬鹿としか言いようがない.学校の先生は口が裂けてもそうとは言わないのだろうが.それでも,家庭や社会の役割がいかに大切であるかを指摘する人は別に珍しくない.問題は実践を伴うか否かである.

教育をする構えの基本として,「自分の心の中に,子供に教えたいものがいつもあるということ」を挙げておられる.これは凄く大切なことだと思う.あと読んでいて面白いなと思ったものに,「和俗童子訓」からの引用があった.これは江戸時代の寺子屋の指導書だそうだ.その中に,「凡そ小児の教えははやくすべし.しかるに凡俗の知なき人は,小児をはやくおしゆれば,気くじけてあしく,只,其心にまかせてをくべし,後に知恵出くれば,ひとりよくなるといふ.是,必ずおろかなる人のいふ事なり.此言葉大なる妨げなり.」と書いてあるそうだ.要するに,「馬鹿な大人は子供の好きにさせておいたら子供が勝手に賢くなると言うが,そんなわけはない.子供には早くからきちんと教育を与えなければいけない.」ということだ.江戸時代の教育観に感心させられる.このようなことが明治維新以降の近代化の土台となったのだろう.それに比べて,今の日本は凋落の坂道を転げ落ちるかのようにも見える.個性の尊重とか戯言をほざいて,自分の責任を放棄し,子供を甘やかせることしかできない大人は,この教えを肝に銘じるべきだ.

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