2002年05月18日(土)
企業と大学の交流

この1週間,昭和電工との共同研究の一環として,大分に滞在させていただいた.プロセス制御系の設計とチューニング,さらに品質推定モデルの構築といったテーマを掲げ,対象プラントをじっくりと見学し,運転データを睨みながら問題点と対策について議論し,対策実施の結果を翌日に検証するというサイクルで,月曜日から金曜日まで現場で作業する機会を得た.

今回の経験は実に素晴らしかった.これまでにも企業を訪問し,共同研究で対象とするプラントを見学させていただく機会は何度もあった.しかし,1日ばかりの滞在でプラントを眺めるだけでは,問題をきっちりと把握することは難しい.もちろん,短時間であっても実プラントを見学することに価値があるのは確かである.しかし,そこから得られるものには限界があるということだ.今回,現場でプラントとその運転データをじっくりと観察し,経験豊富なスタッフと十分に時間をかけて議論する機会を得たことで,現場を知ることの重要性を再認識させられた.大学で工学研究を行う者にとって,今回のような機会は大変有意義であると確信する.一方,企業にとっても,当該分野の理論に強く,最新の研究動向を把握している人からの意見は良い刺激になるのではないだろうか.やや曖昧に感覚的に捉えていたものが理論的に整理されたり,これまでとは違った発想が生まれたりするだろう.

海外の大学にはサバティカル(sabbatical leave)というシステムがあり,数年間勤務するごとに数ヶ月から1年間程度の有給休暇(有給のレベルは様々らしい)が与えられるため,その機会を利用して企業や他大学に滞在し,自分の研究の幅を広げる研究者が多い.日本ではこのような制度が整備されていないため,大学に閉じ籠もったままになる可能性もある.国立大学の独立行政法人化で大学が良くなるとも思えないし,ベンチャー企業を次々に立ち上げれば経済が良くなるとも思わない.もちろん,もっと儲かる研究を大学でやれなんていうのは馬鹿げていると思う.しかし,企業と大学が互いに恩恵を受ける協力関係は築くことができるし,それが日本の発展にも繋がると期待する.昨年夏に三菱化学で開催されたプラクティススクールは大学院生が対象であるが,非常に優れた教育プログラムである.博士後期課程の学生や若手教官を対象に,より専門性の高いテーマを掲げて,企業で数ヶ月間の共同研究を実施するような制度は検討に値するだろう.

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