2001年12月17日(月)
博士を考える

文部科学省は「トップ30」とかいう方針を掲げ,国際的に通用する研究組織(大学単位でトップ30を選ぶわけではないので,大学とは言わない)にお金をばらまく意向だ.この資金は縛りが弱く,雇用も含めて様々な目的で使えるそうだ.このことは良いと思う.ただ,『まともな基準』で選択できるのか,という大きな問題がある.客観的な研究評価は非常に難しい.このことは,日本人ノーベル賞受賞者が,ノーベル賞を受賞するまでは国内で評価されていない状況からも明らかだろう.要するに,見る目のない人が評価してどうするのか,ということだ.数多くの学会があり,それぞれに数多くの研究賞があるが,まともに機能しているのはどの程度なのだろう.現状では,論文数とかIF(インパクトファクター)とかの安易な指標が誤って使われかねない.

科学技術力を向上させ,日本が国際社会をリードしていけるようにするためには,何が必要なのだろうか.米国留学も含めた自分の限られた経験から感じるのは,やはり人の重要性だ.研究遂行上重要な役割を果たすのは,ポスドク(博士号を持った研究者)や博士課程の学生である.非常にアクティブに活動している研究室は,数多くのポスドクや博士課程の学生を抱えている.お金をばらまいて高価な研究機器を揃えても,先端的な研究ができる人がいなければ,話にならない.ポスドクや博士課程の学生は大学院を修了した研究者であり,バリバリ研究する知力と体力とを兼ね備えた人達である.この人達を経済的に支援する仕組みを全く考えてこなかったのが日本であり,その付けは払わなければならない.

日本国内では博士課程の人気がない.これは当然で,企業あるいは大学の研究者と同様に研究を行いながら,給料を貰えないどころか,授業料を払わされるのだから.その上,研究室によっては,雑用まで降ってくるのだろう.これではダメだ.さらに,就職のことを考えても,ポスドク市場が未発達の日本では,人材の流動性があまりにも低過ぎて,運が重要になったりしてしまう.例えば,大学の教官になるには,大学にポストが空いているか否かが重要で,能力は二の次になっている.大学の独立行政法人化と絡んで,助手の任期制導入等が議論されているが,まずはポスドク制度を整備したらどうか.あと,契約更改制にするなら給料を上げないといけない.ある意味,雇用が保障された教授よりも,任期制のポスドクや助手の給料が高くてもおかしくはない気もする.そうでないと,誰が助手になりたいと思うの?

博士課程進学,さらにはポスドクを魅力あるものとすれば,優秀な人材は集まってくる.そうすれば,競争は激しくなり,レベルも上がる.これが市場原理.

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