2001年09月15日(土)
自分の世界の広さ

向上心の欠如が何に由来するのかと考えてみることがある.この「独り言」の中でも何度か書いてきたが,例えば,卒業証書をもらうだけのために大学に通い,十分な専門知識を修得して卒業していくわけではない学生は,一体自分の将来についてどう考えているのだろうかと不思議に思うことがある.不謹慎な言い方をすれば,本当の馬鹿(たとえペーパーテストでの得点能力に優れていても)じゃないかと思うのだが,そういう行動しかとれない理由があるはずだ.

結局の所,その理由とは,自分の世界が狭いということではないだろうか.大学生に限ってみれば,毎日大学に通い,自分と似たような友人とだけ付き合えっていれば,何ら問題なく月日が過ぎていく.特別な目標でもない限り,そんな日常から抜け出す必要性すら感じなくて済む.そして,多くの学生の目標は大学合格時点で消滅している.

もちろん,高い理想と具体的な目標を掲げ,様々な社会的活動に参加したり,必要になる資格取得に向けて猛勉強したりしている学生もいる.そんな学生は放っておいても大丈夫だ.困難に直面しても,それを乗り越えていく能力も精神力も持ち併せているだろう.ある意味,彼らには大学の卒業証書なんて紙切れは必要ない.問題は,とりあえず講義に出てくる普通の学生をどうやって目覚めさせるかだ.教官として学生と接するからには,この問題を避けたら職務を放棄していることになる.

まず簡単にできることとして,口先で学生を焚き付ける方法がある.就職難なんかを理由によく使われる手段だろうが,要するに,頑張らないと酷い目に合うよと脅すわけである.悪いことをしたら地獄に堕ちるよ式の教育である.私の場合,1回生がコンピュータに慣れるための講義を担当する機会があったので,電子メールの演習のときに,次のような文章(一部)を全員に送付した.講義とは関係ないが,目覚めるのは早い方が良いに決まっているので,1回生である彼らに刺激を与えてみたわけだ.過激で誤解を招くような表現かもしれないが,甘えん坊の学生にはこれぐらいで良いだろうとの判断だ.

デジタル・デバイドって言葉を知ってますか.パソコンとかインターネットとかを利用できる人と,そうでない人との格差のことを言います.世界的に大問題になっているわけですが,今後ますます格差は広がります.京大に入れるくらい頭の良い皆さんなら分かると思いますが,能力のない人は不必要って言われる社会が,資本主義の社会なんです.若干言い過ぎかもしれませんが.でも,そういうことでしょ.そういう人にはとことん貧乏になってもらって,能力のある人は大金持ちになりましょうってことです.今後就職しても,その会社で一生働けるかも分からないわけですから,今,自分を磨かないと,一生後悔しますよ.こういうことを誰も言ってくれないと可哀想なので,とりあえず伝えておきます.世界に目を向けましょうね.こんなちっぽけな島国で一生過ごす必要もないんですから.

自分で言うのも変だが,最後の2つの文に,大学の研究室でフラストレーションを溜めている研究者の姿が窺える.研究者や技術者として今後ますます過酷になる国際競争の中で生き残っていくには,相応の覚悟が必要である.ところが,このことを自覚していない学生も多い.修士課程ともなれば,もはや20代中盤に差し掛かる年齢であり,それなりの見識を備えていて当然なのだが,大学というテーマパークの中に閉じ籠もっているだけだと,大して成長できないのだろう.そういう意味でも,学外あるいは国外での経験は大きな意味を持つ.インターンシップや留学がそれだ.そのような機会は誰にでも平等に与えられるわけではないが,求めて掴み取れないものでは決してない.学生諸君には,様々なチャンスを自分で探し,自分で掴み取るように積極的に活動して欲しい.そして,自分の世界を広げて欲しい.学生時代は自由だから.

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