2001年08月12日(日)
新しい歴史教科書についての感想

外交問題にまで発展して注目を集めている「新しい歴史教科書」については,テレビや新聞でも様々な情報や意見が報じられている.しかし,自分で一読してみないことには,垂れ流されている情報が正しいのかどうかすら判断できない.反対の論陣を張る自称専門家達の意見も,どうも感情論過ぎて聞くに堪えない.マスコミに容易く洗脳されない人物でありたいと常々思っている立場から,とにかく市販本を読んでみることにした.

なお,私は歴史が大の苦手であり,しかも正確な情報を把握しているわけでもない.それゆえ,教科書の細部について論じる能力はない.そこで,教科書の内容が史実に忠実かどうかということは脇に置くとして,一つの教科書として,感じたことを記す.

(1)まえがき

本書のまえがきに書かれている内容は,至極もっともな主張である.あれだけ大きな議論,いや非難合戦の様子がマスコミを通じて連日報道されていたにも関わらず,一般国民がその内容を知る術がないというのはおかしい.市販本の出版は教科書採択に影響を与えるから問題だという意見を耳にしたこともあるが,あれだけのマスコミ報道が影響を与えないわけがないので,その主張には何の説得力もない.

(2)近現代史

まず感じたのは,非常に感情を露わにした記述になっているということだ.自然科学系の私としては,教科書や学術誌は客観的事実のみを書くのが当然だと考える習性が身に付いているので,違和感を覚えた.中学・高校時代には国語も嫌いな科目だったが,その理由は他人の感情を無理矢理押し付けるからだ.誰がどう感じるかなんて,人それぞれで良いと思うのに,それに○×を付けるという行為が気に入らなかった.そういう観点から,教科書に感情を書くことには賛成しにくい.別の言い方をすると,世の中には「行間を読む」という表現があるが,この歴史教科書は行間を活字にしてしまっている.これが本書の特徴かどうかは知らない.最近の歴史教科書というのは,どれもそういうものなのだろうか.

所々,首尾一貫していないと感じる記述や意味が良くわからない記述がある.例えば,「日露戦争は(中略)壮大な国民戦争」という表現があるが,私には国民戦争の意味がわからなかった.日露戦争は国民生活にも影響を与える総力戦ではなかったと別の箇所に書かれているので,なおさら国民戦争の意味がわからない.その他,キーワードであるにも拘わらず,内容説明のない用語が見受けられる.ゆとり教育とやらで,必要な説明も省くようになったのだろうか.年代を暗記させるのが歴史教育ではないだろうに.

(3)歴史を学んで(あとがき)

編者から学生へのメッセージが書かれている部分である.しかし,これは酷い.正しい日本語で論理的な文章を書くように,厳しく学生を指導している私としては,到底及第点を与えられる文章ではない.仮にこんな文章を学生が書いてきたら,即時に再提出を求めるだろう.具体的には,「日本人は,外国のために外国を学んだのではない」,「外国を深く学ぶことで自国の独立を失うという,世界の別の国々におこっている危険は,日本にはなかった」という記述の意味が不明である.このあとがきを読んで,その意味を完全に理解できる先生がどれほどいるのだろうか.というより,むしろ,このあとがきを書いた本人は意味がわかっているのだろうか.

他の教科書を読んでいないので比較しようがないが,今時の教科書のレベルはこの程度のものなのだろうか.

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